小説『新宿事変』第一話/歌舞伎町が泣いてるっちゃ!

    小説『新宿事変』第一話/歌舞伎町が泣いてるっちゃ!

    ミッケは驚いた。

    まさか、歌舞伎町がこんなことになっていようとは夢にも思わなかった。

    街は荒れ放題、人間は死人みたい。

    ネズミはゾンビになり、猫は無関心。

    雨はだんだん強くなる。

    前世で人間だった頃の記憶にもこんな悲惨な光景はない。

    どうしたことだ?

    驚きが7割、疑問が2割、そして怒りの気持ちが1割、ミッケの心を支配していた。

     

    1年ぶりに歌舞伎町に帰ってきたというのに・・・。

    歌舞伎町の変わりようにミッケは驚いた。

    驚きの次に「なぜこうなったのか?」という疑問が湧いてきた。

     

    そして、どこかに犯人がいるはずだ。

    その誰かわからない犯人に対するやり場のない怒りが込み上げてきたのである。

    雨の歌舞伎町。ミッケは腹がわの毛のなかまでずぶ濡れだった。

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    ■歌舞伎町の人間たちがおかしい

     

    ミッケは新宿・歌舞伎町で生まれた野良猫である。

    父親は誰かわからない。

    子猫のときに母親とともに歌舞伎町から中野へ流れていったのだ。

    1年たち、母親が死んだ。

    ミッケは立派な青年になった。ミッケは天涯孤独である。

    ただ、歌舞伎町へ行けば、昔の仲間に会えると思った。

    目を閉じて心の声を聞く。

    内なる魂は進むべき道を教えてくれる。

     

    「歌舞伎町へいっちゃいなよ~」

     

    内なる魂の声だった。

    そして、ミッケは歌舞伎町に戻ってきた。

     

    歌舞伎町へ一歩入ってみて気づいた。

    人間たちがおかしい!

    どうしたんだ?

     

    魂が抜かれてしまったのか。

    人間たちの歩く姿がまるで夢遊病者のようだった。

    威勢のいい声はどこからも聞こえない。

    トロンとした眠そうな目、覇気のない頬、気だるげな眉、だらしない唇。

    やる気もなければ、動く気力もない、あきらめきった人間たち。

     

    目の下の黒いクマを作った人間たちが歌舞伎町の路地にベタリと座っている。

    若い女性もいる。

    着ているものは汚れきって、失禁したまま寝そべっているのだ。

    自分の吐いたゲロに顔をうずめて死んでいるように動かない男もいた。

    悪臭を放ちながら路上で生活している人間たち。

     

    どしてこうなったのか?

    いったい歌舞伎町で何が起きているのか?

    ミッケの頭は混乱してグルグルと渦を巻いた。

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    ■歌舞伎町の女王に叱られた!

     

    幼馴染の愛乃を探した。

    ミッケが子猫だったときのこと。

    ミッケの母親の乳を愛乃も一緒に飲んでいたのだ。あの愛乃はきっとまだ歌舞伎町にいるはずだ。

    「愛乃はどこにいるっちゃ?」

    ミッケはぽつりと声に出してみた。

    愛乃とは前世では人間の夫婦だったはず。

    エジプトの神殿で結婚の儀をかわした記憶があるのだ。

     

    愛乃はロボットレストランの地下に住んでいた。

    そして、歌舞伎町の女王になっていた。

    「なんだって? 人間がおかしいって?」

    愛乃が言った。歌舞伎町の女王だけあって威厳がある。子猫だったころの面影はほとんどない。首筋のうなじあたりが、幼い愛乃のかわいらしさを残している程度である。

    愛乃は全身で女王であることを主張していた。

     

    「人間のことなんかほおっておけ!」

    愛乃が大きな声を出した。

    「でも・・な・・なんとか・・・」

    ミッケは愛乃の迫力に圧倒されてしどろもどろになる。

    「人間は傲慢だ。自分たちが地球上で一番偉い生き物だと思っている。猫のことなんかちっとも考えちゃいないんだ」

    「でも、可愛がられている猫もいるっちゃ」

    「ペット猫は悲惨だぞ。すべて人間の都合だ。人間にとっちゃ手厚く可愛がっているつもりでも、猫にとっちゃ苦しくてたまらないってことを、人間たちはわかっちゃいないんだ。フカフカの絨毯にエアコンのきいた部屋、鉄とコンクリートで仕切られた壁、隙間のないドア、そんな家で猫が暮らせると思っているのか?」

    「いえ」

    「そうだろ? 人間って奴は、100%全員ジコチュウなんだよ。自分を中心に物事を考えやがる。最低の生き物だ」

    愛乃は人間に対する恨みがあるのか、人間批判が延々と続いた。

    「でも、・・・」

    「でもも、へったくれもあるか。昔のよしみで忠告してやる。人間とは関わるな!」

     

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    ■歌舞伎町のホスト猫は役立たず!

     

    ミッケはこの歌舞伎町で何が起きているのかを知りたかっただけである。

    なのに、愛乃は何ひとつ教えてくれなかった。

    教えるどころか、何時間もミッケに説教をしたのである。

     

    「まいったなっちゃ」

    ミッケは、ロボットレストランの地下から抜け出して、ホスト街へと歩いていった。

    雨がアスファルトを激しく叩いていた。

    ホストクラブがいっぱいある区域だ。

    猫の世界でも、この区域にはホストクラブがある。

    「お兄さん、イケメンじゃん。どう? ホストにならない?」

    ホストのスカウトがミッケに声をかけてきた。

     

    「え? ワシがホスト?」

    ミッケは自分の鼻先に指をさした。

    「ワシだって、ウケる!」

    「ワシって言うのおかしいっちゃ?」

    「別にいいんですけど、ボクはTAKUYA。ワシの名前は?」

    「ミッケっちゃ。1年ぶりに歌舞伎町に帰ってきたんだけど、人間たちがおかしいっちゃ。何かあったっちゃか?」

    「大丈夫、大丈夫。猫たちは元気だから。猫キャバクラもいまじゃ、朝キャバ、昼キャバ、夜キャバ、深夜キャバと24時間繁盛してるからね。その猫キャバ嬢が、うちらホストに貢いでくれるわけ。うまく循環してるっしょ?」

    「そういうことじゃなくて。人間の世界に何が起きているのかを知りたいの」

    「何って?」

    「人間の魂が抜けてしまったみたいだっちゃ」

    「あ、あれね。あれはねぇ」

    TAKUYAは適当に答えを探そうとして目線が上のほうで泳いでいた。

    「何か知ってるっちゃ?」

    「人間は年に1回、梅雨どきになると魂が抜けるのね。そういう時期だってことじゃん。何の心配もいらないって。それよりさぁ・・・」

    TAKUYAはいい加減なことを言う。調子のいい男猫だ。

    ミッケはこれ以上TAKUYAに聞いても無理だと思った。

    「でもさぁ。新宿のことなら、何でも知ってるって奴を紹介するよ。ちょっと待ってな」

    そう言ってTAKUYAはケータイ電話で誰かと話し出した。

    「いますぐ、ラブホ街のここへ来いって」

    TAKUYAはそう言ってケータイ画面をミッケに見せた。

     

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    ■待ち合わせ場所に来た奴とは?

     

    新宿のことなら、何でも知ってる奴?

    いったいどんな奴だ?

    新宿に長年住みついている老人猫か?

    とんでもない偏屈爺さんだったらどうしよう。

    説教されるのも嫌だなぁ。

    いやいや、爺さんじゃないかもしれない。

    婆さん猫かもしれないぞ。

    耳の遠い婆さんだったら話が通らないかもしれないなぁ。

     

    ミッケは雨のなかを歩いた。

     

    たしか、このへんなはず。

    昼下がりのラブホテル街。

    人間たちが子孫を繁殖するわけでもなく、愛を確かめるわけでもなく、ただ快楽を貪るためだけに作った建物だ。

    「あの、ミッケさんでございますか?」

    どこからか声がした。

    どこだ?

    ミッケはあたりを見回す。どこにも猫はいない。爺さん猫も婆さん猫もいなかった。

    「ここでございますよ、ここ!」

    足もとから声がした。

    「え?」

    「はい。私がTAKUYAさんの知り合いのワンダーチュウでございます」

    そこには、小柄なドブネズミがいた。

     

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    ■歌舞伎町ホテル街にいる猫のお医者さん!

     

    「はい。ミッケさんの言う通り、いま、歌舞伎町がヤバいことになっておりますです。このヤバいことが新宿全土に広がる勢いを見せているのでございます」

    「いったい何が起きてるっちゃ?」

    「とにかく、私についてきてくださいまし。行けばわかりますので」

    ワンダーチュウは丁寧な言葉づかいだった。

    料亭か割烹で育ったネズミかもしれない。

    どこからどう見ても、ドブネズミだが、ネズミも猫も言葉づかいと顔つきで育ちがわかるというものだ。

    でも待てよ。

    ネズミと猫が何で一緒に歩いているんだ?

    おかしかないか?

     

    ワンダーチュウは大久保にある猫病院へミッケを連れていった。

    そこで猫の医者ケンコバ先生を紹介してくれた。

    「ケンコバ先生、こちらがミッケさんでございます」

    「おお、いいところへ来た。いま、猫の手も借りたいくらいてんてこ舞いのところだったんだ。手伝ってくれないか?」

    「はあ」

    ケンコバ先生は患者たちがあふれている待合室へミッケを案内した。

    「これを見てくれ。この者たちを救わなければいけないのだよ」

    そこには無数のネズミがいた。

    死んでるようなネズミたちだった。

    目はトロンとして、口はだらしなく開いたままだ。

    「この者たちは恐ろしい病気にかかっていてなあ。ゾンビネズミというんじゃ」

    「でも、ケンコバ先生、何で猫がネズミの病気を治しているんですか?」

    「ネズミの病気が人間に伝染したんじゃぞ。そのうち猫にも伝染する。いいか、人間やネズミよりも繁殖率の低い猫はどうなる? そのとき、我々猫は絶滅するんじゃ。人間やネズミに起きていることは、猫にも起こりうるということ、それをゆめゆめ忘れてはならんのじゃ」

    「なるほどっちゃ」

    「ゾンビネズミがこれほど繁殖した原因が、実は暗黒の帝王ザムザの仕業なんじゃ。ザムザはとんでもない邪悪な猫でな。同じ猫として恥ずかしい。だから、私は命をかけてゾンビネズミを救出しているんじゃ」

    「ケンコバ先生、ぜひ、ワシに手伝わせてください!」

    こうしてミッケは、ケンコバ先生のもとで働くことになったのである。

     

    (つづく)

     

     

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    コメント

    1. 佐久間直子 より:

      次回がたのしみっちゃ!

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