あーあ、どうしよう……
上の空になりながら、俺は家への道をぼうっとしながら歩く。
理由は今回の中間テストだ。
自信はあったのだが、結果は惨敗。やはり中学の頃のようにはいかないものだ。
やはり追加の参考書などを買うべきなのだろうけど、ひとつ問題がある。
近年の活字離れの影響なのか、近所にあった本屋はほとんど閉店してしまった。一応残っている本屋もあるのだが、参考書となると品ぞろえが悪い。
さて、どうしたものか。
悩みながら家に帰ると兄貴がいた。
待てよ。読書好きの兄だったら、どこかいい場所を知っているかも知れない。
思い切って兄貴に尋ねてみると、とある本屋を紹介してくれた。
翌日、俺と兄貴はその本屋に来た。
それが今俺がいる紀ノ国屋書店新宿本店だ。
なぜ兄貴はこの場所に俺を連れてきたのだろうか?
紀ノ国屋書店なら地元から電車で少し行ったところに系列店はある。
だけど兄貴は、どうせ行くなら新宿の本店に行くべきだと言った。
一体ここに何があるというのだろうか?
これは俺が初めて紀ノ国屋書店新宿本店に行った体験記だ。

戦後立て替えられた紀伊國屋書店新宿本店。二階建てのモダンなデザインだったそうです。
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■理由1/新宿・紀伊国屋本店の歴史が凄すぎる!
まず、ここに来て思ったことがある。
これは本当に本屋なのだろうか?
建物がデカすぎる。
兄貴によるとこの新宿本店の売場は地上8階に地下1階、さらに漫画などを専門に扱う別館まであるという。
地元の本屋なんてこの建物のワンフロア分の広さがあれば十分大きな本屋だというのに、ここはその何倍もの大きさがあるということになる。
売っている本の数がまったく持って想像できない。
兄貴の話によると、紀ノ国屋書店は1927年に個人営業の本屋としてこの場所に創業されたのだそうだ。
当時は新規開業のため一般雑誌を置くことができず、同人誌や文芸誌、文学書や学術書などを中心に扱うことで他の本屋にはない強みを作って行ったのだそうだ。
開業当時は木造だったため戦時中に焼け落ちてしまったのだが、1947年に新たに建物を建て直して営業していたそうだ。
今の建物は1964年に作られ、今日に至るまで本を愛するさまざまな人たちから愛されていると言うことだ。
社名の由来は、創業者の田辺家の先祖が、紀伊徳川家の江戸藩邸に勤める足軽で、商売を営むことになった時に屋号として出身地にちなんだ「紀伊國屋」をつけたのが始まりなんだそうだ。
最初は材木問屋だったが、その後炭問屋になり、田辺茂一の代で書店を開業して今に至るってわけ。
ちなみに、江戸時代の豪商の紀伊國屋文左衛門とは、何の関係もない。
■理由2/圧倒的書籍数がスゴイ!
正面入り口には新刊や今流行の本を店頭販売している。
正直見ていきたいところではあるが、まずは目的の本を見つけるのが先である。
学習参考書があるのは8階だということなので、エレベーターで8階へと向かう。
エレベーターを降りると、まずその売場に驚いた。
端から端まで、すべて参考書関係の本だ。
もしかしたら、日本で売られている参考書が全部ここにそろっているんじゃないだろうかと思うくらいだ。
ぼうっと棚を見ながら歩いていると、高校生用の参考書の棚はすぐに見つかった。
やはり種類が多い。この数は予想以上だ。正直言って、うれしい誤算である。
俺の様子を見て、兄貴は時間がかかると思ったのだろう。
待ち合わせの時間を決めて、別行動をとることにした。
兄貴と別れた後、俺は再び目の前の本棚に目をやった。
おしっ、この中から俺にあった本を見つけだすぞ!
気合いを入れて、俺は取りあえず気になる参考書に手を伸ばした。
■理由3/オリジナルフェアの楽しみがスゴイ!
選んだ参考書を購入した後に時間を確認してみると、まだ待ち合わせまでは余裕がある。どうせだったら文芸書などの本も見てみたいと思い、二階にある文芸書売場へと向かうことにした。
エレベーターで2階へ降りたところで、先ほど8階で感じたのと同じの驚きを味わった。
売場は半分が文庫本、そして残り半分がハードカバーやソフトカバーが置いてある。
いろいろと見ていると、気になる棚を見つけた。
どうやらフェアをやっている棚らしい。テーマは今人気のスマホゲームのようだ。このゲームには神話の英雄や歴史上の人物が登場するため、その人物に関連した本をまとめてある。
フェアの感じからして、ゲームの会社が企画したのかと思っていた。そしてポップを見ると、あることに気づいた。
手書きだ。
それも1枚や2枚ではない。ざっと見ただけで20枚以上はある。1枚1枚しっかりとした紹介が書いてある。ゲーム内のキャラクターと比較してあるし、ただ知識があれば書けるといった内容ではない。
あとで兄貴から聞いたのだが、このフェアは新宿本店のオリジナルのものらしい。
新宿本店では時折オリジナルのフェアを行っている。そのため、普段はなかなか見るような本と出会うことがあったりするということだ。
これもこの新宿本店が多くの人から愛される理由なのだろう。
■理由4/本だけじゃないところがスゴイ!
待ち合わせの場所に行くと、既に兄貴がいた。
兄貴も何か本を買ったらしく、左手にはビニール袋を下げている。そして右手にはどこで買ったのか鮮やかな緑色をしたソフトクリームを持っていて、美味そうに頬張っている。兄貴に聞いてみると、ここの建物で買ったらしい。
指さした方を見ると、エスカレーター下になにやら売場がある。紀ノ茶屋というカフェのようだ。抹茶をコンセプトとした商品を扱っていて、兄貴が食べていたのはそこのソフトクリームだ。
食べ終えたところで、兄貴は紀ノ国屋には本以外にもさまざまなものがあると話した。
まず、この一階の通路だけでもたくさんの店が並んでいる。
文房具、DVD、鉱石之標本や化石を売っているミネラルショップ、さらには革製品を扱っている店や洋服の仕立て屋、煙草やパイプに関するものを売っている店まである。そして地下にはさまざまな種類のレストランがある。
さながらデパートのようだ。
そしてこの建物のもう一つの大きな魅力、それが紀ノ国屋ホールだ。
この劇場は小劇場演劇のメッカとされていて、演劇をやっている人にとっては一度は立ってみたいと思う特別な場所らしい。
また、このホールでは月に一度紀ノ国屋寄席というものをやっている。
一日使ってこの建物を廻るというのも、なかなか面白そうだ。
■理由5/お得なサービスがスゴイ!
紀ノ国屋にはお得なサービスがあると兄貴は言う。
まず、紀ノ国屋ポイントカードだ。
紀ノ国屋で100円買い物をするごとに1ポイント付き、次回の買い物から利用できると言うものである。
この内容であればどこにでもありそうなものだが、お得なのはここから先だ。
ポイントは自分の誕生月でも二倍になり、また洋書やCDを購入した場合は100円ごとに5ポイントつく。
文房具などでもポイントが付くのだから、簡単にたまりそうだ。
さらに、このポイントカードにはゴールド会員というものがある。前の月の買い物総額が10000円以上だと
ゴールド会員にランクアップし、100円ごとに2ポイントつく。
つまり毎月このゴールド会員であり続けた場合、1年間で2400円分のポイントがつく。このほかにもポイントのサービスはあるので、さらにお得になるだろう。
もう一つが配送サービスだ。
紀ノ国屋では購入した書籍の配送サービスを行っている。購入した書籍の合計金額が5000円を超えた場合、無料で配送してもらえる。つまり、今回みたいな重くかさばる参考書なんかはこのサービルを利用するのにうってつけだ。
これは両方とも利用しない手はない。
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■まとめ
今回、なぜ兄貴が新宿本店に俺を連れてきたのか。その理由が何となくわかった気がする。
この場所は、本が好きな人たちが集まるところだと言うことだ。そこにお客と店員と言った関係性はない。
本が好きな人が集まるから素晴らしい売場が生まれ、そしてそれが新たに本を求める人を呼ぶ。
それが今日まで続けられてきたからこそ、この場所に本を求めて人がくるのだろう。
今はまだ高校生だからそんな頻繁にくることはできないが、また来たいと思っている。
これから、長い付き合いになりそうだ。
この場所を知れたことを感謝したい。
(文・翔一)
店名: 紀伊國屋書店 新宿本店
住所: 東京都新宿区新宿3-17-7
TEL: 03-3354-0131 / FAX: 03-3352-3438
営業時間: 10:00~21:00
定休日: 無休
公式サイト: http://www.kinokuniya.co.jp/
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