新宿小説『G7 in 新宿中央公園』

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最近、悪いヤカラにいじめられているという友だちの『ウワサ』を聞いた。
確か今、彼は公園部門に配属されているはず。


これも『ウワサ』
『ウワサ』というより、『ウワサのようなもの』
離れた場所にいる友だちとは直接は話せないが、お互いにアンテナをはっていれば、自然とその気持ちや現象が情報として集まり、伝わってくる。
いわゆるテレパシーというやつだ。
特に風の冷たい今の季節は、情報が鮮明に伝わってくる。
そして昼間よりも、このような真っ暗な時間帯の方がさらに受け取りやすい。
静まり返った夜の間、ぼくは集中して過ごしている。

ぼくの今の職場は、新宿中央公園。
勤務時間はあってないようなもので、ほぼ24時間勤務だ。
とはいっても、普段はじっと立っているだけ。
契約ではそうなっているのだが、近ごろではちょっと事情が変わってきた。
ぼくらのように直接人と向き合う仕事では、時代とともにお客さんの考え方や態度も変化するから、悩みの質も変わってくる。
目下のところ、ぼくらの最大の悩みは、お客さんたちのモラルの低下がとんでもなく進んできたことだ。
誰も見ていなければ、何をするかわからない。
恐怖を感じることも多い。




きのうなどは、口に紙おむつをねじ込まれてしまった。
公共の場である公園にまで、わざわざ持ってくるけしからんヤツラがいるのだ。

このように家庭ごみといわれる物を外に持ち出す人が増えてきたり、テロリストたちの温床にならないためという理由で、たくさんの仲間たちが今もリストラされ続けている。
一緒にいじめに立ち向かう仲間が集められないので、耐えるしかないのがツライ。
ぼくは、街に設置されている、正義感あふれるゴミ箱なのだ。

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■ぼくは日本ゴミ箱連合会の会長なのだ!

こう見えてもぼくは、日本ゴミ箱連合会、初代会長。
もちろん、今もまだ会長。
連合会ができた20年前から、ぼくもいろんな部所へ移動になった。
新宿御苑に配属されたとき知り合った年上の同僚に今後を託され、連合結成を思い立ったのだ。
失礼な客たちに対抗するため、年がら年中『あーだこーだ』と考えはするものの、これを仲間たちと共有するのに手こずる。
ぼくらの意思疎通は、ほとんどがテレパシーに頼っているからだ。
そして会議の中心であるこのテレパシー方式には、1つ条件がある。
それは、〈1度はリアルで会わなければ使えるようにはならない〉というもの。
それ以上伝えるには伝言ゲームのように知り合いの知り合いの. . . という形、つまり〈また聞き〉でしかつながれない。
当然間違うことも多く、どちらかというと、ほとんど正しく伝わることの方が少ない。
だから一向に話が進まないのだ。
風にのってやって来る返事ときたら、まるで伝言ゲームさながら、どんどんテーマからずれてくる。
ある時などは、『勤務地でのゴミ箱の数は適切ですか?』というアンケートが、『あなたの起床時間は?』になっていた。
こういう時、人間たちは気が遠くなると言うそうだが、ぼくはいつも、このがっかりした気持ちを忘れるために、『1度でいいから、横になって気が遠くなるまで寝てみたい』と思うのだった。

この気の遠くなるような会議と並行して、正しい使い方をしない人間が来たときには、口を閉じて入れないようにさせたり、走って逃げたりと個別に活動もしている。
ところが上には上がいるもので、それをするといじめられるようになった。
無理やりこじ開けられて口が曲がったものや、追いかけられてボコボコに蹴られたものも。
そしてきのう、ついに恐れていたことが起きた。
ゴミ箱の中のゴミに火がつけられたのだ。
大ヤケドをおってしまった仲間からの叫び声は、新宿中の連合会会員のもとに送られてきた。

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■ぼくの職場は新宿中央公園

ぼくの今の職場である、新宿中央公園。
ここが唯一、人間とコンタクトが取れる聖域になっている。
どんな人間とでもというわけではない。
過去、自分の中にさまざまなゴミを溜め込んだことのある人間とだけ。
誰であろうとゴミ箱経験を持ったものなら、お互いに気持ちがわかりあえるからだろう。
今日は、かつて自らをゴミ箱と呼んでいた人間、〈後藤さん〉が訪問してくれることになっている。
何もかもにやる気をなくし、自暴自棄になって公園のベンチに体を投げ出していた〈後藤さん〉と知り合ったのは、半年前。
その頃ぼくも〈後藤さん〉同様、もうなすすべもなく、『連合会解散』のテレパシーを送り始めていた。
〈後藤さん〉の座っていたベンチの隣にいるぼくは、彼と毎日いろんなことを話した。
10日ほど経ち、ようやく元気を取り戻した〈後藤さん〉は、勤務先の役所に新設されるゴミ箱課を志願した。
そして新宿だけではなく、東京、日本のゴミ箱事情について、時々会長であるぼくのところに、最新の情報を持ってきてくれるのだ。
テレパシー会議にも〈後藤さん〉が間に入ってくれるようになり、彼と知り合いになったことで、ぼくらの活動は一気に加速した。

■東京オリンピックまでにやるべきこととは?

この業界でぼくらのような境遇にあるのは日本ではあたりまえになってきたが、数少ない海外経験のある仲間から聞いたところによると、海外では幅広く活躍しているらしい。
そんな話をきいて、ただただうらやましく思うだけのぼくらに、突如チャンスが訪れた。
2020年に、ここ東京でオリンピックが開かれるというのだ。
この話を聞いた時、ぼくらも〈後藤さん〉も大喜びだった。
前回の東京大会で、大きなゴミ箱革命があったことは、ぼくらの世界で知らないものはいない。
当然、期待も高まる。
そこで手始めに、まずは支部を増やすことにした。
〈後藤さん〉に協力してもらって新設されたのは、高田馬場支部、歌舞伎町支部、四谷支部、神楽坂支部、大久保支部。
これにぼくの率いる新宿支部を含めて全部で6支部と後藤さんで、やっとG7が揃った。

今日はこのあと、初のG7会議が新宿中央公園で開かれる。
ぼくらの要望を〈後藤さん〉の意見として役所へ持っていってもらうため、ぼくらの『悩み解決につながるアイデア』について話し合うのが会議のテーマだ。

そして決まったのは、『不正ができない、新型ゴミ箱の開発』

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■東京オリンピックまでにゴミ箱を・・・

リオ・オリンピック、パラリンピックも終わり、いよいよ2020年に向けて、市民団体も声を上げ始めた。
ゴミ箱問題にも関心が寄せられ、欧米のように街にゴミ箱を設置してほしいと、
『オリンピックまでに街のゴミ箱を増やそうキャンペーン』も始まった。
そこに使われるのはもちろん、わが日本ゴミ箱連合会新宿支部が提案した、『不正ができないゴミ箱』
〈後藤さん〉が提案したぼくらの案が採用され、新型ゴミ箱がついに完成したのだ。
AI搭載のこのゴミ箱は人の良心に働きかけるタイプのもの。
この計画を始めたときには、罰則タイプの開発をしていたのだが、それだと一時的なものに過ぎない。
アイデアは良かったのだが、コンセプトが世の中の流れに合っていなかった。
そこで、人心回帰、おもてなしの心を中心に考え直した良心タイプができあがった。
長い目で見ると、良心重視という意見が圧倒的だったのだ。

 

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強制ではなく、自ら正しい行動をとれるように仕向ける良心波動。
これをお客さんの気質別に、一番ふさわしい対応方法を選んで発信することに特化されたAIだ。
このAIのすばらしいところは、お客さんと接していないときは、今まで通りいつもの自分でいられること。
すべてがAIに取って代わってしまったら、今まで持っていた人格がぼくらから消え、もはやそれは殺人と同じ。
両方のいいところを活かすこの方法は、ぼくらだけが知っている秘密で、〈後藤さん〉以外の人間たちは、AIがぼくらを乗っ取ったかたちに変更されたと思っているので、このことは内密にお願いしたい。
そして今日、いよいよこの新宿中央公園に第一号が設置される。
この新型ゴミ箱の最大の特徴は、その近くにある旧型ゴミ箱に波動シールを貼ると、新型ゴミ箱から発せられる新型波動を受け取ることができ、ぼくのような旧型ゴミ箱にも新しいAI機能が生まれるということ。
そうなると、今度はぼくにも良心波動を使って仕事ができる能力がプラスされる。
そして、このことが確認されたら、ぼくに貼られたシールは波動シールからAIシールに交換されるという仕組みになっている。
すべてを新しいゴミ箱に取り替えなくても今あるものを活かせるこの方法は、大幅な経費節減にもなる。
このアイデアは、世界的にも注目を浴び始めた。
東京オリンピックの成功よりも先に、『東京発新型ゴミ箱』が大成功を収めるのは間違いないだろう。
だが、これで終わりではない。
世の中は常に移り変わるものだということをぼくらは身を持って体験した。
だからこそ、どんな問題にも立ち向かえる準備として今できることに集中するのだ。
オリンピックの頃には、ぼくらの会議はG7ではなく、少なくともG20にはなっていると思う。
日本ゴミ箱連合会は今も、そしてこれからも進化しつづける!

 

(文/Shigemi)

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